このほど,出張でスペイン・カナリア諸島に行く機会がありました.そのときの様子について紹介しようと思います.
1. カナリア諸島について
カナリア諸島は,スペインの首都マドリードから南西へおよそ 1,700 km,アフリカ大陸から西へ 100〜500 kmほどのところにあります.カナリア諸島には 8 つの有人島がありますが,その中でもテネリフェ島とグラン・カナリア島が観光の拠点となっています.この 2 島の中心都市サンタクルス・デ・テネリフェ市とラスパルマス・デ・グランカナリア市には,4 年の任期ごとにカナリア自治州の首相府が交互に置かれています.なお,後者には日本国の在ラスパルマス領事事務所もあります.今回私が訪れたのは,グラン・カナリア島です.
グラン・カナリア島は,緯度では奄美大島と同じくらいで,年中温暖な「常春の島」といわれています.ヨーロッパ各国からの避暑地・避寒地として多くの人々が訪れています.一方,島の中心には 2,000 m級の高い山が聳え立ち,そこでは冬に雪が降ることもあるそうです.また,スペイン国立航空宇宙技術研究所の研究施設も所在しており,望遠鏡などの観測設備が設置されています.ここには,JAXA のアンテナも設置されており,日本の衛星の追跡,管制に使用されています.
2. 行程
日本からカナリア諸島までは当然直行便はないので,乗り継いで行くことになります.私の場合,関西国際空港からターキッシュエアラインズでイスタンブールを経由してマドリードへと向い,マドリードからイベリア航空でグラン・カナリア空港に行きました.出国からおよそ 27 時間もかかる長旅でした.東京からであれば,うまく乗り継ぐと 1 回のトランジットで行くことができるはずです.
グラン・カナリア空港からの移動には,バスを使いました.前乗り・後降りで,乗るときに目的地を運転手に告げて運賃を支払います.タッチ決済に対応しており,クレジットカードで支払うことができます.時刻表をみると,日中は 1 時間に 1 〜 2 本程度バスがあるらしく,思っていたよりも交通の便はよかったです.しかし,かなりスピードを出しており,ラウンドアバウトを通過するときには強い遠心力がかかり,座席から落ちそうになりました.
3. マスパロマスをぶらぶら
空き時間に,マスパロマスの海辺をうろうろしてみました.
マスパロマスは,空港から南西へおよそ 30 km のところにある小さな町です.どうやら近年になってリゾート地として開発されたらしく,町の西側のメロネラス地区には,多くの 5 つ星ホテルが林立しています.私が滞在中拠点としていたのもこの地区です.
まず,マスパロマス灯台を訪れました.マスパロマス灯台は高さ 55 m の石造りの灯台で, 1861 年に建設が決まったものの,完成までになんと 28 年もの歳月を要しました.そして 1890 年 2 月 1 日から灯台として使用が開始されました.いまも現役の灯台であり,マスパロマスのシンボルであるだけでなく,航海の安全を支え続けています.

ここから,東の方へと歩いて行きました.灯台から東側には砂浜が広がっており,天気のいい日には海水浴客で賑わっています.また,砂浜のすぐ北側には飲食店が立ち並んでおり,スペイン料理や新鮮な魚料理を堪能することができます.

飲食店の広がるエリアを抜けると,砂丘の中に大きな池が見えてきます.さながら砂漠の中のオアシスのようです.私が訪ねたときは,この池で多くの野鳥が羽を休めていました.ここからさらに東の方へ行くと,400 ha もの広大な砂丘が広がっています.日本の鳥取砂丘と同様に,ラクダに乗って歩くことのできるツアーがあるそうです.この写真よりもっと東の方にも砂丘は続いていますが,このあとバスに乗ってラスパルマスに行く予定でしたので,ほどほどにしておきました.

この町を歩いていてとても気になったのは,一台も信号機を見かけなかったことです.すべての交差点に信号機はなく,ラウンドアバウトになっていました.信号機をつけるほどの交通量がないのでしょうか.ラウンドアバウトのおかげで交通の流動はスムーズでした.
このほか,サボテンが至るところに生えているのに気づきました.1 種類だけでなく,棒状,球状,平らなど,いろんな形のサボテンがありました.

4. ラスパルマスをぶらぶら
こちらも国際会議の空き時間に,ラスパルマスへ行ってみました.今回はあまり時間がなかったので,ラスパルマスの南部にある旧市街(ベゲタ,トリアナ地区)を歩きました.
ラスパルマスは,空港から北へおよそ 20 km のところにあるラスパルマス県の県都で,カナリア諸島最大の都市でもあります.人口はおよそ 37 万 8 千人(2023年1月1日現在)で,長野市とほぼ同じくらいです.
スタート地点は,旧市街にあるエル・テアトロバス停です.バスから降りると,まず古めかしい劇場が目に入ります.これはペレス・ガルドス劇場(Teatro Pérez Galdós)で,スペインの偉大な作家の一人である,ベニート・ペレス・ガルドス(1843~1920)の名を冠しています.1890 年に建てられました.
ここから,南のベゲタ地区へと向かいました.ここはかつての島の中心で,今も古都の面影を残しています.15 世紀,スペイン王国の征服軍がカナリア先住民に勝利した,ギニグアダの戦いがあった場所です.複雑に入り組んだ路地を進むと,一際大きな建物が見えてきます.これはカナリア大聖堂(Catedral de Canarias)です.1500 年,セビリアの建築家ディエゴ・アロンソ・デ・モンタデによって着工が開始されましたが,1570 年に中断されました.その後,1798 年にカナリアの生んだ著名な彫刻家ルハン・ペレスによって工事が再開したものの,何度か中断を経て現在に至っています.

大聖堂の前には,サンタ・アナ広場を挟んでラスパルマス・デ・グランカナリア市の庁舎があります.1842 年から 1855 年にかけて建てられ,2001 年から 2010 年にかけて建築家のマグイ・ゴンサレスとホセ・アントニオ・ソーサにより修復が行われました.庁舎の中には多くの絵画が展示されており,なかでもベンチュラ・アルバレス・サラ作の『移民』は 1909 年にプラド美術館から寄贈されたものです.毎週日曜日には市議会により無料のガイドツアーが催されています.

ここから少し西に行くと,噴水のある,エスピリトゥ・サント広場(Plaza y Ermita del Espíritu Santo)があります.カナリア出身の芸術家であるマヌエル・ポンセ・デ・レオン・イー・ファルコンの作品で,1867 年に完成しました.工事の費用はすべて市民により拠出されました.スペインの内務大臣を務めたフェルナンド・レオン・イー・カスティーロは,この噴水を「生涯で見た中で唯一の屋根付き噴水」と語っています.

広場から東に折り返し進むと,カナリア博物館(El Museo Canario)があります.グラン・カナリア島出身の研究者らにより 1879 年に設立されました.現在の建物は,設立メンバーの一人であったグレゴリオ・チル医師の遺言により,その財産と共に博物館のため市に寄付された医師の私邸です.陶器類や先住民の住まいの模型,先住民が使っていた服飾品,先住民の頭蓋骨やミイラなどが数多く展示されており,カナリア諸島の先住民の暮らしについて詳しく知ることができます.入館するとき,学割を使うために日本語の学生証を提示しましたが(国際学生証を作っていなかったので),とても親切な受付のお兄さんがちゃんと割り引いてくれました.


ここからカナリア大聖堂へと戻り,北の方へと行くと,大きな道を挟んだ北側にウルタド・デ・メンドーサ広場(Plaza de Hurtado de Mendoza)があります.ちょうどここがベゲタ地区とトリアナ地区の境となっています. 1871 年に,ここからペレス・ガルドス劇場まで並木道が整備されました.1908 年には,当時のアンブロシオ・ウルタド・デ・メンドーサ市長の名により,庭園が整備され,ヤシの木や月桂樹,アカシアなどの低木が植えられ,池の中では白鳥やアヒル,ペリカンが飼育されるようになりました.1922 年に彼が亡くなると,広場に彼の名がつけられ,記念碑が建てられました.広場のそばには公立図書館や多くのレストランがあり,たくさんの人々で賑わっていました.

図書館の北西に行くと,カイラスコ広場(Plaza de Cairasco)があり,広場に面してガビネテ・リテラリオ(Gabinete Literario)があります.1844 年に建てられ,もとはカイラスコ劇場として使われていましたが,のちにガビネテ・リテラリオの建物となりました.19 世紀末に建築家のフェルナンド・ナバロとラファエル・マサネットにより内装と外装の改修工事が行われ,現在の特徴的なファサードができました.1 階にある黄金の間の天井には,マヌエル・ゴンサレス・メンデスが描いたアポロ,オルフェウス,タリアを表す神話のテーマで描かれた 3 枚の大きなキャンバスが飾られています.また,メイフレンホールには,カタルーニャ出身の画家のエリセオ・メイフレン・ロイグが 20 世紀初頭にラスパルマスに滞在していたときに制作した油絵のコレクションが展示されています.

ガビネテ・リテラリオから 2 筋東へ行くと,トリアナ通り(Calle Triana)があります.トリアナ通りは歩行者専用で,通り沿いには多くのお店が軒を連ねています.私が訪問した日は平日でしたが,かなり多くの人出がありました.規模は違いますが,東京の銀座のような雰囲気を感じました.建物の色合いはみな落ち着いた感じで,この通りにあるマクドナルドは京都と同じく焦茶色を基調とした看板となっています.トリアナ通りの歩行者専用区間の北端には,日本の在ラスパルマス領事事務所があります.カナリア自治州が管轄区域となっています.日本から 10,000 km 以上離れた大西洋の孤島でも,確かに日の丸がはためいていました.


日本の領事事務所の北側に行くと,サン・テルモ公園(Parque San Telmo)があります.この街の中では大きめの公園です.公園内には,教会やカフェなどがあります.また,ドッグランが併設されており,犬を連れた人が多くみられました.取り立てて面白いことはないですが,街の喧騒から離れてゆったりとできるいい場所だと感じました.

サン・テルモ公園の東側には,大きなバスターミナル(Estacion San Telmo)があります.ここからアルカスやテルデなど,島内のさまざまな町へのバスが出ています.日本にもあるスイッチバック式のバスターミナルとなっていて,出発するときには一旦バックしてから進みます.多くのバスが発着していて便利なのはいいのですが,バス乗り場の数が多すぎて,どこに行けばいいのかしばらくわかりませんでした.案内看板も日本よりも不親切だと思います.使う際には,早めに行くのをお勧めします.

まだ帰りのバスまで少し時間があったので,バスターミナルから海の方に出てみました.海のそばには運動器具がいくつか設置されていて,トレーニングできるようになっていました.海の方を見ると,ラスパルマスの港が見えます.ここは1478 年にコロンブスが 6 隻のカラベラスとともに来訪した港で,アメリカ大陸発見のときの寄港地として有名です.また,古くから日本の遠洋漁業の基地となっています.サンタカタリナ埠頭では,スペイン本土やカナリア諸島の他の島へのフェリーが発着しているほか,豪華客船も数多く入港しています.今回訪問することはできませんでしたが,世界最大級の水槽があるポエマ・デルマル水族館(Acuario Poema del Mar)などもこの港のそばにあります.

バスターミナルに戻り,バスに乗ってマスパロマスへと帰りました.
参考文献
- 在ラスパルマス領事事務所『ラスパルマス案内』https://www.es.emb-japan.go.jp/files/100348826.pdf,2024年9月20日アクセス.
- JAXA『カナリア諸島のミニチュア大陸、グラン・カナリア島』https://www.eorc.jaxa.jp/earthview/2010/tp101129.html,2024年9月26日アクセス.
- Gran Canaria Tourist Board『Dunes by the Lighthouse』https://www.grancanaria.com/turismo/en/10-reasons-to-return-to-gran-canaria/dunes-by-the-lighthouse/,2024年9月24日アクセス.
- スペイン観光局『スペインの自然スポットにある砂丘を歩く』https://www.spain.info/ja/toppu/supein-shizen-supotto-sakyu-aruku/,2024年9月25日アクセス.
- Instituto Nacional de Estadísticaホームページ.
- ラスパルマス・デ・グランカナリア市議会『Casas Consistoriales』https://lpavisit.com/es/actividades/atractivos/703-casas-consistoriales,2024年9月27日アクセス.
- Gabinete Literario『Arquitectura – Gabinete Literario』https://www.gabineteliterario.com/arquitectura/,2024年10月1日アクセス.